医療においてインターセックスのとらえ方をどう変えるか

以下は、北米インターセックス協会(ISNA)の理事でもあるミシガン州立大学の Alice Dreger 博士によって作成されたものです。

比較のポイント 隠蔽本位のモデル 患者本位のモデル
インターセックスとは? インターセックスは滅多に起きない身体構造上の異常であり、インターセックスの当事者と家族の双方にが大変つらい思いをすることになります。インターセックスは病気なので、すみやかに医学的な処置を必要とします。 インターセックスとは「標準的な」男女の型とはちがう身体構造ですが、そう珍しいものではありません。肌の色や髪の色がさまざまに異なっているように、性的な身体構造や生殖器構造にも、さまざまな違いがあるのです。インターセックスは医学的にも社会的にも、病気ではありません。
こどもの性別は生まれつき決まっているのか、育ち方や環境でつくられるのか? 育ち方や環境によってつくられます。性器をそれらしく見せることができれば、子どもを「オトコの子」にでも「オンナの子」にでもできるのです。遺伝子、脳、ホルモン、どのような胎児期を送ったかなどは、問題にはなりません。 もちろん、生まれつきのものと環境の両方が関係していますが、それは重要な問題ではありません。大切なのは、インターセックスの人々が、他のあらゆる人と同じ倫理的な原則にもとづく扱いを受けることです。それぞれの身体と自己決定が尊重され、自分の身体と生について本当のことを知り、差別されることなく扱われなくてはなりません。医者、研究者、ジェンダー理論家たちは、インターセックスの人々を「ジェンダーは生まれつきか、つくられるものなのか」をめぐる実験や議論に利用することをやめるべきです。
インターセックスの性器は健康に害があるのか? はい。インターセックスを治療せずにいると、おそらくは鬱や自殺、ことによっては「同性愛的な」性指向を引き起こしかねません。これを避けるために、インターセックスの性器はできるかぎり「正常化」しなくてはなりません。 いいえ。インターセックスの性器には医学的に問題はありません。インターセックスの性器がある場合、代謝上の問題が隠れていることはあります。けれども、性器自体は病気ではなく、外見が少し違っているだけです。代謝上の問題があればそれは医学的に治療しなくてはなりませんが、性器そのものの医学的治療が必要なわけではありません。医学的治療が必要だとする説を裏付ける証拠はありません。逆に、それに対する反証は存在しています。
医学はどのように対応するべきか? 外科手術、ホルモン治療などの技術を利用し、異常な性器を「正常化」するのが、インターセックスの正しい治療法です。そうすることで、インターセックスの子供の両親はつらい思いをせずにすみます。 家族全員が、同じ境遇にいる人たちのグループの紹介を含む精神的サポートを受け、なるべくたくさんの情報を与えられるべきです。本当に医学的な問題(たとえば泌尿器の感染症や代謝障害など)は医学的に治療しなくてはいけませんが、絶対に必要な治療以外は、インターセックスの当事者が自分の意志で同意しない限り、おこなうべきではありません。
いつ、性器を「正常」に見せるための処置をとるべき? インターセックスは精神的にさしせまった危機をもたらすので、できるだけ早い処置が必要です。処置が先延ばしされるほど、トラウマも大きくなってしまいます。 当事者がそれを要求し、そして処置にともなうリスクと予想される結果とについて十分な情報を提供された後に限るべきです。こうした外科手術では、生命、生殖能力、排泄制御機能、感覚などが、かなりの危険にさらされます。実際に処置を体験した人と話をしてその人たちの考えを聞いて自分の考えをまとめることができるようにすることも必要です。
どうしてそれぞれの治療方針を主張するのか? 性器が男女どちらともはっきりしなかったり、性差のあり方が標準的でなかったりすることに、私たちの社会がうまく対応できない、と考えるからです。もしも性器を治さなかったら、インターセックスの子供は、両親からさえものけ者扱いを受け、嘲笑され、排除されてしまうことでしょう。 自分の身体に関してはインターセックスの当事者に自己決定権があると考えるからです。当事者の同意のないまま早い時期に「正常化」のための外科手術をほどこすのは、この権利に抵触することになります。外科手術やホルモン治療の多くは、もとにもどすことができません。処置には大きなリスクが存在する以上、患者の同意なくこのリスクをおかすべきではありません。
子供の状況が両親を苦しめているとしたら、子供に外科的手術をすることでその苦痛をやわらげてあげるべき? 絶対にそうするべきです。自分の子供を完全に受けいれ、子供との絆をむすぶために、両親は「正常化」手術に同意することができるのですし、そうするべきなのです。 精神的な苦痛には正当に配慮をするべきですし、適切な訓練を受けた専門家が対処するべきです。けれども、両親が苦しんでいるからといって、それは、子供の生命、生殖能力、排泄制御機能、あるいは感覚を危険にさらす十分な理由にはなりません
インターセックスの新生児の性別はどうやって決める? 医学的検査にもとづいて医師が決めます。Y染色体と、適切な、あるいは「再建可能な」ペニスを持った子供は、男性とします。(男性とするには、新生児のペニスは1インチ以上でなければいけません。)Y染色体を持つ子供のペニスが適切ではない、あるいは「再建不可能」だと医者が判断すれば、女性とした上で、手術によって女性器を作ります。Y染色体を持たない子供は、女性とします。この時、医師の考える女性性器のあるべき姿にあわせて、性器を外科的に変形します。この処置にはクリトリスを小さくする手術やヴァギナ(膣孔)の成形がふくまれます。 両親および親族が医師と相談した上で決めます。患者本位のモデルは、第三の性別や男女のどちらとも割り切れない性別を選ぶように奨励するものでは、ありません。子供には男性あるいは女性の性別をわりあてます。ただしそれはあくまでも、検査(ホルモン検査、遺伝子検査、診断テスト)をおこない、両親が他のインターセックスの子供の両親や家族と話をする機会をもち、そして家族全員が自助グループからのサポートを受けた後でなくてはいけません。私たちが女性あるいは男性の性別のわりあてを勧めるのは、今のように全てが男女に分かれている社会において、あからさまに「例外」として育てることは子供に不必要なトラウマを与えるから、という理由によります。
 ただし、インターセックスの幼児にとっても、それ以外のあらゆる幼児にとっても、わりあてられた性別が仮のものに過ぎないということは、知っておくべきです。どんな子供でも、わりあてられてきた性別を変えようと成長してから決めることがあるのです。ただ、治療の有無にかかわらず、インターセックスの子供が性別の移行をおこなう率は全体での割合とくらべてかなり高くなっています。これが、医学的に不必要な外科手術を当事者の同意なしにおこなってはいけない、決定的な理由です。インターセックスの子供は、将来、(もってうまれたものであれ、手術によって成形されたものであれ)医師が選ぶのとは違う性器を望むかもしれない、ということです。手術で成形された性器を「もとにもどす」のは不可能ではないにしてもとてもむずかしく、生まれてすぐ、あるいは幼児期に性器を変形されると、たいていの場合は、医師が押し付けた性器から逃れることはできません。
インターセックスの子供が生まれたら、誰が両親の相談にのるべき? インターセックスは精神的危機をもたらすものですが、この危機は、子供にすみやかに性をわりあて、わりあてた性を手術で補強することで、やわらげることができます。専門家によるカウンセリングを受けるよう勧めますが、一般的にはその用意はされていません。おなじ状況にある人々との交流は、通常は、勧めることも提供することもありません。 インターセックスは、コミュニティや社会の配慮と理解、そしてサポートを必要とします。子供がインターセックスである可能性が生じたら、あるいは家族にとって必要になったら、なるべく早くカウンセリングをはじめなくてはなりません。カウンセリングには、性の問題、家族心理力学、出産後の不慮の問題などについての訓練をうけた専門のカウンセラーが、同席するべきです。また、積極的に家族を自助グループに結びつけることも必要です。
インターセックスの子供がものの分かる年齢になったら、何を伝えるべき? ほとんど何も言う必要はありません。わかっていることを全部伝えたら、手術によって性別の混乱を避けようとしたのが、無駄になります。情報や医療記録は、もし必要なら、本人には教えないでおきましょう。言葉遣いを曖昧にして、たとえばAIS(アンドロゲン不応症)の女性に話をする時には「あなたの精巣を除去した」ではなく「卵巣がつぶれていたので除去した」と言うようにするべきです。 わかっていることは全て伝えるべきです。当事者とその両親には、インターセックスの状況について医師と同じだけのことを知る権利があり、その責任があります。秘密主義や情報の欠如は、当事者に恥の感情やトラウマを引き起こしたり、患者の健康を危険にさらしかねない医療行為につながったりします。逆に、秘密主義や恥の感情によって傷ついた人が将来の健康管理を避けてしまう、たとえば、AISの女性が必要なホルモン補充療法を含む医療を受けないでしまう、ということも起こります。
もう一方の考え方の問題点は? 当事者の両親や仲間は、男女のどちらとも決められない性器をもった子供がいることで、気詰まりに感じるかもしれません。ロッカー・ルームや公衆トイレ、保育所や学校といった社会施設は、「異常な」子供にとっては残酷な環境になることがあります。インターセックスの子供は、成長してから、両親が性器を「正常化」しておいてくれたらよかったのにと思うかもしれないのです。 手術本位の考え方は、インターセックスの当事者の自主性と自己決定権とを踏みにじっています。この隠蔽型のモデルでは、本当には当事者の同意を得ていないままで、手術がおこなわれてしまいます。手術の失敗率、手術の有効性を示す証拠がないということ、あるいは手術以外にどのような対処ができるか、などについて、両親は何も聞かされていないことが多いのです。社会生活で困難が生じるのであれば、社会を変えるべきであり、それを子供の身体を変える理由にするのは間違っています。
インターセックスにとって理想的な未来とは? 科学的、医学的技術の進歩によってインターセックスが存在しなくなることです。 社会が人間の多様性を受け入れ、違っているから病気だという考え方がなくなることです。
それぞれのモデルを支持しているのは誰? b.John Money 博士とその門下の人々、大多数の小児泌尿器科医師や小児内分泌科医師、そして多くの婦人科医とその他健康管理にたずさわる医師たちです。 インターセックスの活動家とその支持者たち、倫理学者、法学者、医学史家。臨床医でこの考え方を支持する人も増えています。

インターセックスについてもっと読んでみたい方、この書類をダウンロードしたい方は、北米インターセックス協会のサイト http://www.isna.org (英語)まで。